《MUMEI》 ひーひー言いながら、 麻婆豆腐を口に運んでいると、 辛いの大好き、平然と麻婆豆腐を平らげた美咲に、 こう訊かれた。 「えっくん、好きな人いるでしょ??」 「…ふぁ!?」 唐突な質問に、変な声で答えてしまった。 「…だって、あの、橋のとこにいた女の人!! お姫様みたいな!! …あの人のこと、ず〜っと見てたよ??」 「…あー…よく覚えてたね…」 「だって、だから、 電柱にぶつかりそうになったんだもん」 「…ご、ごめん」 まだ、根にもってんな?? 「だから、えっくんはその人が好きなのかなあ??って」 …そーなのか?? でも、まあ気になってたのは事実だし… でも… 「ちがうの??」 「…う〜ん… ―…わかんね!!」 「え〜!!?ごまかさないでよー!!」 「だって、わかんないもん。 …そーゆう美咲は、好きな男の子、いんのか??」 「美咲??…美咲は…いないけど―…」 いたらどうしよう、と少し心配だったが、 答えを聞いてほっとした。 ―…のも、つかの間。 「…でも、今日男の子に“好き”って言われた」 カチャーン、と、 オレのレンゲが音を立てて落ちた。 「……マジで??」 「うん。同じクラスの阿部君に」 「阿部か!!…あの、美咲が風邪で休んだとき、 わざわざ美咲のぶんのノート取って持ってきた、 あの阿部かあ!!」 「うん。 …えっくん、よく覚えてるね…」 「まあな、オレの記憶力、ハンパねえから!! ―…じゃ、なくて!!」 「考えとく、って答えたよ」 「…そーか…」 「だって、阿部君やさしいし、かけっこもいつも1番だし…」 「………」 ついに、美咲にもこういう日が来たか… 最近の小学生はませてんなあ… 「でさ、えっくんはお姫様のこと、ほんとは好きなんでしょ!?」 「…え??あーうん、そーだよ…」 美咲の話がショックだったので、 なんか投げやりになって答えた。 「やっぱり〜☆予感的中!!美咲、応援してるからね!!」 そう言うと、美咲はごちそうさま、と手を合わせて テーブルを立った。 オレはまた激辛麻婆豆腐に口をつける。 ぎゃはは、と、またカナの笑い声。 あーくそ。 辛いな。 前へ |次へ |
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