《MUMEI》

それからは必然的に、
オレとりかちゃんは一緒に帰るようになった。



「えっくんは、夏休みにりかと会ったとき、
りかが何してたか聞かないんですね」



ある日の帰り道、自転車を押しながら
りかちゃんがそう口にした。



「え??…訊いてもよかったの??」

まあ、気になってはいたけど…そこはタブーかなと…



「…あの時、振られたんですよぉ、りか!!」



しばらくすると、
りかちゃんから話しはじめた。



「りか、浮気されたんです。
…問い詰めたら、“やっぱ性格ブスは無理”って…」



…なんてヤツだ…

なにも言えずにいると、



「確かに、りかって性格ブスじゃないですかぁ??
…だから、なんにも言い返せなくて…

でも、性格ブスなりに、いろいろ頑張ってたんですよ??

まあ、最後には、呼び出して、ビンタして、
…終わらせちゃいましたけど…」



一気に喋ると、りかちゃんは俯いた。


そして、ぱっと顔を上げて、



「…って、りか何をべらべらと…
ごめんなさい、忘れてください!!」



と、笑った。


その笑顔が痛々しくて、
オレは胸が苦しくなった。



「りかちゃん、…あのさ」

「なんですか??」



努めて明るく振舞うりかちゃんに、オレは言いたかったことを言った。


たぶん、
橋でりかちゃんの震える背中を見たときから、


ずっと、
言いたかったこと。




「おもいっきり、
泣けばいーんだよ」




りかちゃんの大きな目が、更に大きく見開かれた。



その瞳から、大粒の涙が零れ落ちる。



「…な、なんで…そ…ゆこと、言うん、ですかぁ…??」



泣きながら、りかちゃんが言う。



「…だって、
ちゃんと泣けなかったから、
―…我慢してたから、
つくり笑いしか出来ないんでしょ??

…ちゃんと笑った方が、
絶対かわいいって!!」



オレは笑ってそう答えた。



子どもみたいに泣き続けるりかちゃん。


本当に、ずっと我慢してたんだな…


意地っ張りで、強がりで、
少しわがままで…



笑うと、きっと最高に可愛い。



そんなりかちゃんを、




オレは、この時確かに、


愛しく感じていた。

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