《MUMEI》

「ツンー帽子取ってー」

「眼鏡取ってー」

兄さんの子供達にすっかり懐かれている。
外で雪だるまを作るのは五体目だ。

「えーちょっとだけだよー?……ちらっ!」

隠れていた耳を一瞬だけ出した。

「見えないよ」

「見えないー」

兄貴が仕事に帰ってツンはぐーんと仲良くなった。
バァちゃんにジィちゃん、母さんに義姉さん……


ツンはこの田舎を鮮やかに彩る。
しかし彼はバァちゃん家以外では帽子も眼鏡も取らない徹底ぶりだった。

それでもツンは人を惹きつけてやまなかった。
本人も自覚しているのか下手に外には出ない。
ちょっと家の敷地内を歩く程度である。

「離れろ。」

休日なので兄貴が帰ってきた。

「ぱぱだー」

「おかえりなさい」

うわぁ兄貴すげぇ怒っている。

「お帰りなさい」

ツンが子供達と一緒になって無邪気に迎えた。

「みきすね!
お前が誰に懐こうと構わないがこっちに巻き込んでくれるな。
こんな得体の知れない奴何しでかすか考えられたものじゃない。」

ツンを侮蔑の目で見据えてくる。

「兄貴はコイツのこと知らないからそういうこと言えるんだ。」

そんな目つき向けられたらむかむかする。

「分かる、お前は昔からそういう奴だ。簡単に騙されて毒牙にかかる。
好き好んで利用されたがっている節があった。」

「いくら兄貴でも……」

歯を食いしばるのも限界だ。








「ぱーん」

俺が拳を握った瞬間、ツンが両手を天へ伸ばした。

俺達兄弟の前にツンの横顔が入り頭上を白い雪が舞った。

ツンが散らしたのだ。

「……とにかく関わるな。」

子供達の手を引いて家に入って行った。

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