《MUMEI》

「で??何があったの」



気分の悪そうなカナに水を用意しながら問いかける。



「きーてよ、えっくん!!!」

「はいはい、聞いてますから…」



コップをカナに渡し、カナの向かいのソファに腰掛ける。


カナは一気にコップの水を飲み干すと、



「振られた――!!!」



と、叫んだ。



―…なんだ。

「…いつものことじゃん」

「あ!?今なんか言った!!?」

「……いや、ドンマイ…」

「あのくそオヤジ!!浮気してやがった!!!」

(カナは6歳年上のサラリーマンと付き合ってた)

「…それで、振られたの??振ったんじゃなくて??」



そう聞くと、カナは急に黙り込んだ。


…あれ??聞いちゃまずかった??



カナが顔を上げる。



「…結婚するんだって!!その同い年の大人の女性と!!」

「…そ、それは…」



それは、ショックだっただろうな…


カナだって、弟のオレから見ても結構美人だし、大人っぽい。


悔しかったんだろうな…



「…まあほら、カナもまだ19だし!
これからだよ!!!」

「…そうだよね…
あ〜あ!!やっぱ奪ったモン勝ちかあ!!」



カナがそう言ってソファに寝転ぶ。



「…そうかな」



無意識に口にしていた。



「え?」



カナがオレに目をやる。



「いや、奪う、とかじゃなくて…
好きになるって、もっとこう…
なんてゆーか、
―…相手も自分も幸せになることだと思うんだ」

「………」



カナがいきなり傍にあったクッションを投げてきた。



「うわ、」



とっさに避けると、



「……ったよ」



カナがボソッと呟いた。



「え??なに???」



聞き返すと、



「…ちゃんと、
“おめでとう”って、言ったよ!!!」



大きな声が返ってきた。


そしてカナはオレに背中を向けた。


大きな声は、涙をごまかす為だろう。



オレはソファから立ち上がり、クローゼットからブランケットを持ち出すと、
ソファに寝転がるカナにそっとかけてやった。



「偉かった。…カナにしては!!」



そう声を掛けて部屋を出ると、背中の方から



「ありがと」



と、小さく聞こえた。



―…難しいな、恋愛って。



そんなことを考えていると、



「チロも言うよーになったもんだね」



階段からクミの声。



「…げ。聞いてたの」

「まーね。珍しくカナが本気で落ち込んでたし」

「…そっか」

「…落ち込むたびに動物園に行っては家に連れ戻されて
べそかいてたチロがねえ…
そっかあ、もう高2かあ」



にやにやしながらクミが言う。



「…な…」



いつの話してんだよ!!



「うるせえ!!オレ風呂入るから!!」

「お、一緒に入る??」

「バカか」




あ―もう!!
絶対バカにされてる!!

確かに、オレは落ち込んだとき

行き着く先はいつも、


近所の動物園だった。

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