《MUMEI》
“親友”
近くのバス停のベンチに座ると、
りかちゃんが話し出した。



「…綾乃とは、中学からの付き合いで、…親友でした。

少なくとも、りかはそう思ってました」



りかちゃんの長い髪が涼しい風に揺れる。



「…りかが中学の時から片思いしてた男の子とのこと、
綾乃はずっと応援してくれてたんです。

…高校に入ってすぐ、
りかがその子に告白して、
付き合い始めたんですけど…」



そこで、りかちゃんは言葉を切って息を吸う。



「…でも、浮気された。
その相手が…
―…綾乃、だったんです」



…そうか。

そういうことがあったから、
親友も、恋人も…なんてこと言ってたんだ。



「これ…」



りかちゃんが制服のポケットから、
何かを取り出した。



小さな掌に乗ったそれは、
銀色のピンキーリングだった。



「…これ、綾乃とお揃いで買ったんです。
―…親友の証だ、って―…」



りかちゃんは搾り出すような声でそう言うと、
ぎゅっと、リングを握り締めた。



あの時、これを捨てようとしてたんだ―…


『親友の証』を捨てようとして、
…でも、捨てられなかったんだ―…


オレに、言えることなんて何も無かった。


『誰に嫌われても、手に入れる』


―…それは、とても哀しい言葉だけど、


オレに、それを否定する権利なんて無い。



それだけは、はっきりと判った。




―…もうひとつ、判ったことがある。



それは、



オレは、いま隣にいる

脆くて弱い、この女の子のことが






好きなんだ、ってこと。

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