《MUMEI》
協力
次の日。

看板の色塗り。


オレとりかちゃんは緑を塗っていた。


昨日のことは忘れたかのように、
りかちゃんはオレに楽しそうに話しかける。


―…でも。


梶野とゆきちゃんが赤色を塗り始めた途端、

りかちゃんは何も話さなくなってしまった。


“相談”は、もうしたんだろーか。


ふとそんなことが頭をよぎったとき。



「りか、ちょっと行って来ます」



そう言って、りかちゃんが立ち上がった。



オレは、ただ見ていることしかできない。


しばらくして、ゆきちゃんがオレの処にきた。


梶野とりかちゃんは、楽しそうに赤を塗っている。



「…やっぱ、そうだよな…」



オレに、ある考えが浮かんだ。



「…なにが??」



ゆきちゃんが不思議そうに言う。


「りかちゃん。
―と、梶野のこと、さ。」

「…あー…」



困惑した様子のゆきちゃん。



「…さっきまで、オレと話してたんだ、りかちゃん。
…でもさ、ゆきちゃんと梶野が赤塗りだしてから、
喋んなくなっちゃったよ」

「…あー…、うん…」

「りかちゃん、男に絡まれてるとき、
梶野に助けられたんだろ??」

「…らしいね」

「…梶野に訊いたら、驚いてた。
『あれ、姫井だったのか!!』―…って」


オレは、梶野の口調を真似る。


―…梶野は、ホントに驚いてた。
何をそんなに急いでたんだか。



「…なにそれ」



ゆきちゃんが呆れたように言う。



「…だよなあ??
あんな美少女の顔
見るヨユー無いほど急いでたのか??」

「…へ…??」

「…だってさ、りかちゃんの連絡先も訊かずに帰ったんだろ??
めっちゃ急いでたとしか―…」

「…………」



…やっぱ、ゆきちゃんには心当たりがあるんだろう。

何かを考え込むようにして、黙ってしまった。



「あれ??どーしたの、ゆきちゃん??」



効果があったようだ。


ゆきちゃんは、梶野たちをちらりと見たあと、

何かを振り切るように、腕まくりをして言った。



「…よし!!江藤君、早く終わらそっ!!」


「おー!!」



オレも、刷毛を持ち直す。



りかちゃんに梶野のことを諦めさせるには、

ゆきちゃんと梶野をくっつけるのが一番だ。


ごめん、りかちゃん。


オレ、君の恋には協力できない。


オレは君のことが好きだし、



なにより―…





これ以上傷つく君を、


見たくない。

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