《MUMEI》

今日は、オレが梶野にりかちゃんを送るように頼まなきゃいけない。


―…でも…



「悪ぃ!!おれ忘れ物したみたい!!
取りに帰るから、先帰ってて!!!」



りかちゃんが、
『ゆきちゃんが学校に残ってる』
と言った途端、梶野は
バレバレの嘘を残して、学校へ戻ってしまった。



「…行っちゃいましたね…」

「……うん…」



りかちゃんは、それだけ言うと、自転車をこぎだした。



「こうなるんじゃないかなあ、って」



ふいに、りかちゃんが言った。



「え??」

「…なんとなく分かってました。こうなるの」

「…えー…と…」



りかちゃんは、困惑気味のオレを無視して続ける。



「だって、りかと話してる間も、
梶野せんぱい、相原先輩の方ばっか見て、上の空!!
…これで気づかない相原先輩も、そーとー鈍感ですよね!!」



りかちゃんは笑う。


でも、無理して笑ってるのが、オレにはわかる。



「でも…もし、梶野せんぱいと相原先輩が付き合ったとしても、
りかが奪い取る自信あります!!」

「…りかちゃん―…」



…そんな寂しいこと、言わないでくれ。


オレは、自転車にブレーキをかけた。

キィッ、と、小さな音を響かせて、自転車が止まる。

りかちゃんもそれに気づいて自転車を止め、振り返る。



「…??どうしたんですか…??」

「…奪う、とかそういうこと、言わないでよ…」

「…え…」

「オレ、りかちゃんにも幸せに笑ってて欲しい。
きっと、奪ったって、りかちゃんは幸せに笑えない。

そういう、優しい子だから…」

「…優しい子なんかじゃないですよ。
意地悪で、わがままなだけです」

「…だってほら、ネコに優しくしてた…」

「あれは、…元彼がネコ好きだったから、
あわせようとしただけです!!
…りか、別に動物好きじゃないし」



そ、そうだったのか…



「…オレは、動物大好きだけどな。
癒されるし。
…てゆうか、動物園が好き」

「…えっくん、意外に子ども…」

「いや、動物園ってさ、みんな笑顔じゃん??
…オレ、人が笑ってるとこ見んの大好きなんだよ」

「………」



オレがそう言うと、りかちゃんは黙ってしまった。



「…だからさ、りかちゃんにも笑ってて欲しいんだ」



オレの言葉に、りかちゃんは顔を上げた。



「…りか、えっくんみたいにはなれません…」



そして、そう言うと、先に帰ってしまった。


呼び止めることも出来ないオレ。




―…情けないけど、
オレはなす術など持ち合わせてない。

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