《MUMEI》

「ぱぱどうしたのー?」

「手ぇ痛いよ」

兄貴は両手に子供達を率いて行く。
何も言わない彼はさぞ不気味であったろう。

「……兄貴は誤解してる。」

兄貴の背を睨むことくらいしか出来なかった。
ツンは似ているけど違う。そんなこと見ていれば分かることなのに。

「誰に重ねているの?」

「大事な人。」

それ以上は言えない。

「俺にもいるよ大事な人。その人が俺に与えてくれた、与えたいと想わせた。」

目を閉じ睫毛がばさりと下りる。
唇が自然と柔らかい笑みを象り彼はその人物を想いながらはにかんだ。

「すっごい熱愛ぶりだな。」

「そうだよ、だぁ〜い好きなんだ。」

だぁい好きだなんて口にするその瞬間、彼はただの一人の男にすぎなかった。
今までで一番、嘘偽りの無い姿だった。

「お前が最近えっちぃくなったのはその人のせい?」

「さあ?万年発情期だからなあ。
みきすねの言い方面白い。俺ってえっちぃんだ?」

鼻が付くすれすれまで近付いてきた。
いつもの調子にすっかり戻っている。

「確信犯だろ!」

近くで見るのはやっぱりまだ慣れない。

「嫌じゃないくせに。もっと仲良くしようよ。
ちゅってしよ?ちゅってさ

きっとお兄さんとも仲良くなれるよ。」

「兄貴にそんなことしたら歯の一、二本簡単に折られるぞ!」

ツンなんか兄貴の力の前では赤子の手を捻るようなもんだ。
俺達は父さんからみっちり格闘技を仕込まれている。
兄貴は特に筋が良くて部活も柔道一本だった。しかもエースだ。

「それ、心配してるの?お兄さんきっと優しいよ。」

「それ、本気で言ってるのか?」

「俺の堪はよく当たるよ?」

そんな自信に満ち溢れていたら真実とさえ思えてくる。

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