貴方の中の小悪魔
を知る神秘の占い

《MUMEI》
――襲撃――
 戦闘は終了した。ゴブリン群の追撃をかわし、危なげな足取りでアメール王国首都イリスの地を踏んだ傭兵隊は、各々の駐留区画である国営の宿に向かって歩き始める。
 むろん、凱旋パレードなどはなく、各傭兵隊長は黙々と報酬の受け取りに向かった。
 アルケインも危なげなさの例外ではなく、重々しい空気の中を長剣一本だけの武装で歩んでいた。普段、彼がこのような軽装で報酬受領に向かうことは少ないのだ。
「はいよ。金貨で二〇〇万」
 この場所の主であり、元傭兵でもあるギルドの親父は、国家から届けられた金貨の入った袋をアルケインに手渡し、部下達にも報酬を届けるよういった。
「おやっさん、騎兵四〇を手配してくれ」
 二〇〇枚の金貨が入っている袋から取り出した四枚のそれを親父に手渡し、新たにポジェットから取り出した金貨を中に詰めた。
「はいよ。兵舎代四万を忘れないでくれよ」
「もちろんだ」
 しかし、袋から取り出す前に彼の動作は中断させられる。長剣と戦斧とが火花を散らし、金貨袋は地に落ちているのだった。
「おいおい、アルケイン。ギルドをぶっ壊さないでくれよ」
 アルケイン自身を心配する様子もなく、ギルドの親父はいった。
「大丈夫だ。
 ――おい、野郎。外に出ろ」
 突然、襲ってきた男に彼はいった。だが、男は剣戟をかわし、駆け出していた。
「待ちやがれ!」
「一騎討ちでも?」
 立ち止まって振り返った男は、自信に満ちた赤い瞳をアルケインに向ける。
「私に勝てるとでも?」
 冷酷なまなざしがアルケインを射抜く。
「あんたの実力など、俺の知ったことじゃないね」
 同じようなまなざしを返し、両手で剣を構える。
 しばらく牽制し合った後、剣戟が交わされた。アルケインが振り下ろした長剣は、男の片手に握られた戦斧に防がれる。
「ほう、なかなか……」
 戦斧を振り下ろしながら襲撃者は呟く。
 アルケインは、長剣で戦斧を受け流して身体を一回転させ、相手の後ろに回り込む。そして、首筋に触れる直前で刃物の動きを止めた。
「首……落とそうか?」
「まだ死ぬつもりはない」
無表情のまま振り返った襲撃者の顔は、左目に眼帯がつけられた、大きなスカイブルーの瞳がひときわ異彩を放っていた。
 瞳のきらめきと同時に戦斧も一閃し、アルケインのみぞおちに柄が食い込んだ。
 襲撃者の舌打ちは、振り回した剣が空気を斬る音に遮られる。しかし、剣は地面に突き立てられ、アルケインの息遣いは荒くなった。
「待て……よ」
 路上を駆け抜け、人ごみに紛れてしまった襲撃者に向かって、アルケインはしわがれた声を上げた。
「アルケイン、大丈夫か?」
 外の異変に気がついた元傭兵はアルケイン駆け寄る。
「宿屋まで運んでやる。気分は?」
「……最悪」

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