《MUMEI》
煙の中の影
 昨日までズラリと立ち並んでいたはずのビル群は、無惨にも崩れ落ちて灰色の煙を立ち上らせていた。
遠くの方からは爆発音が聞こえてくる。
しかし、マボロシの姿は見えない。

「今は、大型のマボロシはいないようです」

「じゃあ、あの爆発は?」

「わかりませんけど、小型のマボロシがいるんじゃないですか?」

「小型の……」

「どうしますか?」

「とりあえず、音がする方へ行きましょう」

羽田の提案に、凜は無言で進み始めた。


 歩いている途中、テラは落ち着きなく羽田の頭から飛び降りて動き回った。
テラが羽田から離れるたび、羽田の目に映る景色が変わる。

平和なこちらの世界と、荒れ果てた向こうの世界。

「同じなのに、まったく違う……」

「え?」

ぼんやり呟いた羽田の言葉に前を歩く凜は振り向いた。

「なんでもない」

「……そうですか」


 だんだんと爆発音が近づいてくる。
周りに向こうの世界の人の気配はない。
進むにつれて、瓦礫の山が増えていき、まともに立っている建物もほとんどなくなってきた。


会話もなく、静かに歩き続けていると、突然、前方で大きな爆発が起きた。
羽田は反射的に両手で頭を抱えてしゃがみ込む。
しかし、凜は微動だにせず爆発の先を見つめていた。

凜の様子から、とりあえず身の危険はないと判断した羽田は、ゆっくり顔を上げた。
目の前ではガラガラと崩れる建物が煙に包まれている。
よく目を凝らして見ると、その煙の中でユラリと影が動いた。

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