《MUMEI》 「こんにちは」 次の日買い物がてら娘達を連れて外に出てみると敷地内にやつがいた。 「ツンだー」 「遊んでー」 娘達はすっかりあいつに侵されている。 ここ全体から毒は回り汚染するのだ。 「宿題があるだろう」 極力子供達から引き離したかった。 「ツンとやる」 「ツンお家来てよーママが呼びたいってさ」 「美紀、由紀!」 二人は目をがっちり閉ざして怯えた後、家へ戻った。 「酷いなあ二人は関係ないでしょ?」 この男の特性なのか笑っているかのような口元だ。 「柴野君……だっけか? 娘達に関わらないでくれるかな?なんだか、悪い気が立ち込めてくるのが分かるんだよ。」 あの黒瞳、忌ま忌ましい。全てを蝕む炎のようだ。 「俺は遊んでいるだけですよ」 「遊び程度では済まないだろう!誰もがお前を見て欲する餓えておかしくなる。 傷つけあってその先に何を得る? お前がいずれそうなるのを知っているぞ。 毒を流し込みじわじわ広がり……」 「それは俺じゃありません」 しかしその仕種は紛れも無い艶を含ませていた。 「妻も娘もバァさんもここいら全体がお前を気にかけている。 自覚しているだろう?」 「俺にはそんな力ありませんよ。 買い被り過ぎなんです。貴方が考えるより遥かに簡単な仕組みなんじゃないんですか? ね、昭一郎さん?」 柴野は不敵に笑う。 昭一郎だって? 脈が早打ちしする。纏わりつく視線が不快で排除しなければと思った。 「昭一郎って呼ぶなぁ!」 殴ってやる、あいつみたいに! こんな細い線で俺に勝てると思うな! こんなひ弱な体で…… 激情が止どなく流れる。随分前から知っているものが体内に溢れ出た。 「止めろよ兄貴!」 振り上げた拳をみきすねに捕まえられた。 奴の顔を見た途端、力が抜けてしまう。 柴野は雪に塗れ、俺に自由を奪われ殴られる寸前であっても口元が笑っていた。 あいつのように笑っていた お前はまた俺から奪いにきたんだろう? そうなんだろう? 口から幾つも恨みが立ち込め、その臭気に思わず嘔吐してしまう。 『うぐ……っ、ぅエッ』 「…………啼かないで、ごめんなさい。……ごめんなさい。」 甘い声が血の廻りを緩和する。 俺の手を握る柴野の指は冷たくて掌は温かかった。 俺を殴るなんてしなかった。 泣いてなんかないのに優しい体温だ。 それでも彼を透して映る奴が怖い。 前へ |次へ |
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