《MUMEI》 夜明け俺は気付いていた。 薄々だけれど、形跡はなくとも確かに居たんだ。 予感ではなく、事実として気が付いていた。 深夜までツンと他愛もないことを話し俺はツンより早く眠くなる。 ツンはあの下の部屋へ行く。 ジィちゃんが急にハキハキものを言うようになった。 昔に戻ったみたいだ。 バァちゃんもなんだかご機嫌なようだ。 兄貴が体調を崩した。 風邪気味で胃が痛むらしい。今日くらい様子を見に行ってみよう。 一応俺は美紀と由紀のカテキョだし。 「義姉さーん。」 「パートだよ。」 母さんが出てきた。 「バァちゃんが味醂貸してってさ。」 勿論、嘘だ。兄貴の部屋に行くための。 「……なあ、体調崩したのは風邪のせい?」 「来るな」 兄貴に構わず入って手近な座布団の上に座る。 「なあ、ツンが来たから?」 そんなに嫌うのはどうしてなんだ? 「……お前は知らないんだ。本当に恐ろしいものなんて。」 兄貴の言っている意味が分からない。 「兄貴はさ……似ているからツンが嫌いなんだろ。」 この間ツンへ詰め寄った兄貴はあいつを見ながら吐いた。 「馬鹿。全然似てない。俺が嫌なのは見張られていたからだ! 見え隠れするあいつが、思い出させる……」 見張り?誰の? 兄貴は昔はこんなに硬派じゃなかった。 「知る権利がある、俺にだって。」 急に真面目になった原因がそこにあるのも気付いていた。 知りたい。 もう俺に庇護はいらない。 前へ |次へ |
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