《MUMEI》

 俺はあいつを抱きしめたい欲望と戦っていた。

 でも今そうしたら、奴らと同じだ。でも、もしかしたらあいつは誘っているんじゃあ・・・?

「外で煙草吸ってるから早くしろ!」

 急に怒ったような調子で言ったので、びっくりして俺を見るあいつを置いてドアの外に出た。

 暫くしてスポーツバッグを持ってあいつが出てきた。
 心配そうに見回して俺を見るとほっとしたようだ。

 俺もいつ狼に変わるか分からないのに。

 あいつの家は京浜急行沿線で俺の下宿がある駅の手前の長沢だ。俺たちは並んで吊革に掴まっていた。
 あいつは下を向いて押し黙ってる。

 男なのに荒くれどもの欲望の対象になり、犯されそうになったことはかなりのショックだったのだろう。

 俺はあいつが哀れになって、
「家まで送ろうか?」
 断られるのを承知で聞いてみた。

 あいつは小さく頷いた!

 あいつの家は古い門構えの2階建てだった。あいつが戸を開けて、
「・・・お茶でも飲んでく?」
「い、いや、ここで失礼する」

 あいつは長野出身で、この湘南の祖父の家に下宿させてもらっていると言っていた。
 踵を返そうとする俺をあいつは止めた。

「あ・・・あの、明日、何時に電車に乗るの?」
「・・・明日は・・・三浦を8時発に乗る」
「じゃ、8時5分ぐらいにここの駅に着くね?」
「一番後ろに乗ってるよ」

 小さく頷くあいつに別れを告げると、

「だ、大介さん、あの・・・ありがと。今日は」
 ようやくあいつは俺に礼を言った。

 言葉遣いも俺を慕っているような感じだ。あいつと明日は一緒に登校する?

 俺は意気揚々と帰って行った。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫