《MUMEI》

 俺は翌朝、各駅停車の最後部に乗って長沢駅で降りた。
 しばらく待つとあいつが来た。

 俺たちは軽く挨拶すると次に来た電車に一緒に乗った。
 あいつは少し元気が戻ったようだ。何を食べたかとか他愛もないことを話した。

 驚いたことに、髪を見ると茶髪の色が少し落ちたようだ。
 髪を見ていると、あいつは恥ずかしそうに、
「・・・日本男児の髪は黒だろ?」

 大学に着くと、正門の近くの広場で煙草を吸っていた悪友のHとSが、俺たちを見て目を丸くした。
 アイドル的存在の1年のあいつと一緒に俺が登校するなど、思いもしなかったに違いない。

「あ・・・君、りんちゃん・・・いや、柳生君だね!」
 Hが言った。Hはいつもあいつの噂をしていたのだ。あいつは高学年の恰幅を示しているHとSに、ぺこりと頭を下げた。

「な、なんでお前が知り合いなんだ?」
 Hはいぶかしげに俺に言った。

「・・・あの、俺、大介さんの小説のフアンなんです」
 あいつが取り繕った。
 あいつは、ボールをみんなが来る前に片づけなきゃ、と言って、グランドの方に行きかけて振り返った。

「大介さん、帰りは?」
「サッカーがあるんだろ」
 あいつは笑って走り出しながら言った。
「・・・今日はないんだ。4時頃ここで!」

「おい、大介!俺はお前のことを見損なっていた!すまん」
 あいつが行ってしまうと、Hが感激したように俺の手を取って言った。Sは腕組みしてにやにやしている。

 Hが片目を瞑りながら言った。

「いいか、りんちゃんが来たら『サッド・カフェ』に連れてこい!」
「・・・馬鹿言え。無理に連れて行けるか!」
 Sが言った。
「一緒に待ってようぜ。頼めば来てくれるさ」

 こいつら、まさかあいつを・・・?

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