《MUMEI》

 俺はあまり多弁ではなかったが、コーヒーを飲みながら、あいつと悪友達の会話を楽しんでいた。

 まして楽しそうに話すあいつを俺はうっとり見ていた。だが、あいつが時々俺を見ると目を逸らした。

 よくあることだ。

 好きな女の子を見ていて、彼女もこっちをちらと見る。
 でも、それでこちらを好きになってくれているとは限らないのだ。

 俺は何回もそんな失敗をした。

 ましてあいつは男だ。

 俺に対して恋愛感情などあいつに生まれる筈はない。

 あいつが笑顔を俺に向けて言った。畜生、なんて可愛いんだ。
 俺の目には既に、あいつが男には見えなかった。女でもない。

 何か魅力的な『異性』だった。

 あいつは、もう悪友達のアイドルになっているようだ。

「大介さん・・・」
「おいおい、ここではさん付けは要らないぜ。こんなやつ『お前』で十分だ」Hが言う。

 俺は苦笑いして、
「ああ、『大介』でも『お前』でもいいぜ」
「・・・じゃ、俺、『大介』の小説の続き読みたいな」
「りん、気をつけろ。こいつのは大男色エロエロ小説だぞ!」
「そういえば、りんみたいの出てくるな!」
「おお!りん、やばいぞ。俺たちがこの悪魔から守ってやるからな!」

 ごろが快いのか、奴らはあいつの勝手に決めた愛称を連発する。

 あいつはいたずらっぽそうな目をして、

「でもきれいな恋の話だよ!絶対大賞取れるよ」

 あいつが笑ってそう言った。

 書き出しの数十枚を読んだだけで内容を理解していたんだ!

 俺はこいつを絶対親友にする!

 恋人に出来ないのならせめて終生の友人になってつきまとってやる!

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