《MUMEI》 俺があいつの肩を抱きかかえて、玄関の呼び鈴を押すとドアが開いて、厳つい顔の老人が出てきた。 白髪だが、まくり上げた腕は老人と思えぬほど太かった。 俺の名前を告げると鋭い目で俺をぎろと見て、 「お前が未成年の林太郎にこんなに飲ませたのか!」 と、一喝された。 平謝りに謝っているとあいつが顔を上げて、 「爺ちゃん、違うよ。俺が調子に乗って飲んだんだよ。大介は悪くないんだ」 『爺ちゃん』はあいつを愛おしそうに見ると、 「いいか!不良め!金輪際、林太郎に近寄ると許さんぞ!」 後で聞くとこの爺さんは古武道の達人で道場を経営しているという。 孫のあいつを溺愛しているようだ。 春休みに入り、俺はバイトに忙しくなり、あいつと顔を合わせることはなかった。 夜に電話をしようかとも思ったが、何を話せば良いか分からない。 休みが明けた最初の登校日の朝、俺は長沢の駅であいつを待った。 しかしあいつは現れなかった。 俺は久々の輪講を終えて校門を出ようとしていた。悪友達は今日はまだ休みらしい。 校門の裏の駐輪場にさしかかると、銀色のバイクスーツを着た男が手袋をはめていた。振り返った。 あいつだった。 俺は、爺さんに近寄るなと言われたことがかなりのトラウマになっていた。 あの剣幕で古武道の居合いでばっさりやられかねない。あっても一緒に帰るか、サッド・カフェで会うぐらいになるだろうと思っていた。 あいつがにこっと笑った。 「・・・久しぶり」 「・・・今日はバイクか?」 一緒に電車で帰るという期待は潰えた。 がっかりした表情の俺にあいつは言った。 「後ろに乗れよ。送っていくよ」 作者注)このシーンが第1章の冒頭に続くのです・・・ 前へ |
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