《MUMEI》

俺の部屋だ。正しくは『だった』ものだけど。

「……光、帰ろ」

布団に手を掛ける。
俺の指先に触れるものは懐かしい香りがした。


「ヤダ。」


何年振りだろう。

「幹祐……。」

声がジィさんに似ている。大きくなったなというか、面影も殆ど残ってない。
強い目で俺を睨んでいる。

「……光と寝たの?」

急に不安になった。

「ばあか」

後ろの押し入れから光が出てくる。今日は全裸でお出迎えではなさそうだ。
顔を見ると安心できた。

「寝たの?」

半分本気で半分冗談だ。
まあ、幹祐にそんな度胸ありはしないだろうが。

「確かめてみる?」

光は含み笑いをしながら片足を床に降ろす。
相変わらずのしなやかな脚線美が披露された。

挑発もウチの光ちゃんはお上手だ。
今なら抱きしめてやりたいところだ。

「……とりあえずは後でにしてくれ。」

幹祐はぴりぴりしてそんな余裕もなさそうだ。

「幹祐は学生?」

親父や兄貴の雰囲気に少し似ている。前は完全にオフクロ似だった。

「そうだよ。兄貴は?」

こんな頭してたら聞きたくもなるよな。

「夜の帝王デショ?」

光に先を越された。

「昭一郎は?」

こんなに違和感があるものか。
ずっと昭一郎と呼んできたはずなのに。

「派遣しながらの兼業農家。今は体調崩して新居で療養してる。
ツンが兄貴と繋がっていることに気が付き始めてからずっと部屋に篭りきりだ。
兄貴と会った方がいいよ」

「……幹祐が思っているような簡単な関係ではないんだ。」

語るべきか?出来ればこいつだけには何も知らずにいて欲しかった。

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