《MUMEI》 「……お色気ムンムン〜?」 画面に釘付けになる。 確かにお色気はムンムンですけれど、この姿は完全なる男性……しかもうなじから腰にかけての女性が見てたら鼻血ものの全裸セクシィ・ショット。 成る程、この『同士』か。 この見返りイケメンがイチ押し若手俳優を溺れさせたといふのですね……。 「何撮ってんのヘンタイ!」 高遠先輩は制裁を喰らう。木下先輩は真面目だ、全く違う性格なのにこうして対話出来るのはやはり同じフェロモンを持つもの同士だからか。 「同じ穴のムジナでしょ?添付して待ち受け画像にどうですか? もっといいのありますよ」 俺はこれ以上のものは別に見なくていい。もうお腹いっぱいです。 木下先輩も同じ気持ちのようだ。 「阿呆でゴメンな…… 俺にしても高遠にしても軽蔑してくれて構わないから、周りに言い触らさないでくれ。」 そんな顔で頼まれて逆らう奴なんていませんよ。 「いえ驚きはしましたけど軽蔑はしません。 二人とも相手を想いあっていることもよく分かります。一般の恋愛とどこも変わらないのも分かりました、そんな純粋な気持ちを踏み付けになんて俺には出来ませんよ。」 「さ、佐藤……」 木下先輩の目から涙が引っ切り無しに溢れ出す。 「俺には感動してくれないんですねー」 「……高遠、五月蝿い。今気分がいいんだから放っておいて。」 俺が渡したハンカチで涙を拭く。 三人で高遠先輩の彼氏への対策を練り二人は藤田と入れ代わりに帰って行った。 「先輩達来てたんだ。今の高遠先輩?」 「うん、珍しいよね。話しちゃった。楽しい人だったよ。」 いつもの部活になる。今の時期は調度放課後の進学講習真っ只中で、安西や神部はそれを受けてからやってくる。 今は小さいコンテスト用に短編映像を制作していて、二人ダラけながら安西達を待つのが日課になっていた。 彼等がリーダーシップを取るので俺達は案を出したり意見するまでだ。 藤田とはそんなに会話も必要ないしテキトーにぼやいたりとかしてるだけでいいから楽だ。 「高遠先輩カッコよかった?」 「見たんだろさっき。カッコイイのは当たり前だって、芸能人だし。 顔がさ、超小さいの! 木下先輩と並べると二人驚異のバランスだったわ。」 「ふーん」 自分で話振っときながらやけに素っ気ないな。 「木下先輩と高遠先輩超仲良しなんだな、勘繰りそうになった。」 「ふーん」 リアクション薄い。 ここ!ここ笑うトコ! 「俺も勘繰りそうになった」 藤田は手の甲で目から下を隠していたせいか表情が読み取れない。 こういうことは今までなかったかもしれない。 俺も理解できない藤田がいるなんてなんか嫌だ。 「今日はなんかへんだぞ。帰った方が良くないか?」 黙りこくって俯いてばかりだ。 「……そうかも、なんかへん。ずっとへんなんだ、俺。」 両腕を掴んで肩を震わせている。寒気でもするように見えた。 「風邪か?」 向かい合わせに付けた机に乗り出して藤田の顔を下から覗き込む。目が赤み帯びて瞼が重たそうだ。 虚ろな瞳で苦しそうに息を吐いた。 「今日はもう帰れ?な?」 俺が触るより早く藤田は俺に触れた。 実際は、俺は手で触って熱を測ろうとしていただけだから、こんな風にキスされるなんて思ってもなかった。 藤田の口の中にさっき分けて食べていたチョコの甘味が香る。 「……………………ふっ」 息が苦しい。 舌が絡み合い、吸い付かれた。 俺はこんなキス知らない。 酸欠で倒れそうで、体は熱くなる程の長い接吻だった。 一発でも撲って拒めばいいはずなのに、舌で余すところ無く口に広げられた甘味に脳まで溶かされ、藤田の閉じた瞼の穏やかさに安堵し、逃げるタイミングを完ッ全に逃した。 唇から通う痺れに身動きが出来ない。 なんだこの暴挙は、なんだこのキスは……! 前へ |次へ |
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