《MUMEI》
偽装、決意、休憩
「あ〜その件に関してなんだけどさ、ロアは少なくとも私達みたいに教会に束縛される事は無いよ。」
エミが簡単に言う。
「「「え?」」」
ロア、リース、式夜の声がハモる。
「正式な手続き無しでロア達を使ったからね、戦死したとか適当な言い訳はいくらでも出来るし〜」
ニマニマと笑いながらトンっとレイの肩を叩く。
「・・・報告書はエミが作るのね?」
レイは僅かに口元に笑みを浮かべ、そのまま歩き出す。
「う・・仕方ないなぁ。書類書くの嫌いなのに・・」
レイを追うようにエミも歩き出す。
「何ぼーっとしてるの。早く行くよ〜」
その声に応じるように全員が街の外へと向かった。
「行こうリース。」
「うん、姉さん。」
涙を零しながらも嬉しそうにリースはロアの隣を歩いてエミ達に続いた。
「・・報告はしないほうが良いかも知れないな。」
セイは最後に続きながらロアとレイの様子を見ている。

避難場所となっていた林では簡易テントが立ち並び簡易診療所となっていた。
負傷者の手当てを最優先に住民の確認も同時に行なっている。
「まったく・・なんだってあんな重傷を負うかな・・」
彩詩、シンギの傷の手当を終えたキティホークがハンディングの隣で一息つきながら話しかける。
「・・守りきることができた、と言うべきか。」
「死者も出たし・・結界もボロボロ。でも被害は抑えられたと言うべきね。」
ハンディングの問いにキティホークは自身に言い聞かせるように答え静かにため息をついた。
「落ち込むのは後回し。今一番大事なのは・・・」
暗い場を明るくするためか、笑顔を浮かべながらハンディングに向かって手を出す。
「事後処理であろう?」
「またまた〜一般人が頑張ったんだから謝礼の一つでも渡すのが筋でしょう?」
ズイっとハンディングに迫る。
「やれやれ、そなたを見ているとアイズの行く末が不安になる。」
そう言いながらも懐から一本のナイフを取り出す。
「大丈夫、私って立派な先生だからね。」
ふふんっと誇らしげに笑いながらナイフを受け取ると鞘から抜いて刀身を確かめる。
「あれ・・これハンドが造ったのじゃ無いでしょ?」
「リアムから買った物だ。魔術用の短剣としてはかなりの質の物だが・・不満か?」
「・・あの二十四時間いつでも閉店中の武器屋の?」
リアムの武器屋は彼女の気まぐれで店を開けたり閉めたりするため、「開かずの武器屋」と言われていたりする。
「なに、あれの気まぐれで開ける店ではあるが・・腕は確かだ。」
「そ、今回折れた分くらいにはなりそうね。最近良いナイフが無くて困ってるのよね〜」
キティホークは戦闘でナイフを使う際に強力な魔力をナイフに通して使うため市販のナイフでは数秒で砕けてしまうため、一級品レベルのナイフを収集している。
もちろん本人の趣味もだいぶ混じっているようだが・・
「師匠〜式夜さん達が戻って来ましたよ〜手当てしないと・・」
「はいはい、今行くから。」
手をヒラヒラとアイズに向かって振りながら、キティホークは歩いていく。
周囲にはすでに治療を終えたヒトが多数。
アイズ以外にもロナイなどの医術士は治療に忙しく走り回っている。
「ようやく・・休憩できる〜〜・・」
エミがアイズの手当てを受けながら水を一気に飲み干す。その横では琴が医術士の治療を受けている。
「よしっと・・これで問題無しです。」
包帯を巻き終えたアイズが安心したような笑顔を見せながら治療道具を片付けていく。
「ありがと〜〜」
だらけた調子でエミはそのままテントを出て行く。
「師匠、こっちは終わりました。」
「ん、ご苦労様。アイズも少し休みな。彩詩とかの横なら空いてるベットがあるはずだし・・」
キティホークがアイズの頭を軽く撫ぜると優しげに言う。
「は〜い。師匠もあんまり無理はしないでくださいね。高位の治癒術も使ったんだから・・」
「心配しすぎよ。あ〜・・式夜、この子と一緒に休んで来なさい。」
ロアの隣に座っていた式夜に声をかけ、アイズと共に簡易テントへと向かわせる。

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