《MUMEI》

レイと俺は幼なじみだった。昭一郎は俺達の面倒をよく見てくれる良い兄だ。

名前で呼び合い三人家族のように育った。


いつからか、自分は普通の子供ではないと気が付いてしまった。
縋るように救いを求める瞳をするやつがいる。
そいつは『悪いやつ』で俺を狙う。
鬼のような人さらい。
怖い大人。

昭一郎はそれらから俺を守ってくれる。

俺にレイは優しい言葉をかけてくれる。

子供のときはそれで幸せだった。

俺は皆に見られていて、常に注目されているという優越感を得た。

幹祐という弟が産まれ、俺は両親や昭一郎が幹祐にかかりきりなのが気に入らなかった。

嘘をつくことを覚えた。

『悪いやつ』に襲われたという嘘だ。





皆が俺を見てくれた。

完璧な嘘だったのにレイとジィちゃんには何故かバレてしまう。

それが俺には不思議だった。

ジィちゃんには分かっていたのかもしれない、俺が此処に適合できない異質であることが。

レイは家族みたいなものだった。俺を見ていてくれる母親だ。

どんなに横暴でもレイが俺を叱り付けた。

俺がこの田舎を嫌い始めたのには理由がある。

成長していくうちに可愛い子供から牡の匂いを醸し出すと変質者の代わりにオンナが俺を見た。
男は敵視して常に誰も寄せ付けないようにした。

そんな俺を縛り付けようとする執拗なまでの規則に期待、虫酸が走る。

俺といると女子は口を付けたがる。それ以上を要求してくる。

裏切らないようにしたまでなのに何故怒られるのだろうか。

俺が『悪いやつ』になってしまうのだろうか。

そんなのは嫌だ。彼女達の意志を尊重したはずなのにこぞって俺を悪者に仕立て上げた。

それならば、彼女達に言ってもらえばいい。

優しい言葉と優しい愛撫で従わせてあげた。

自由意思で俺の『お願い』を聞いてもらう。

皆可愛い奴隷だ。


けれどレイだけは思うようにならなかった。
それが俺には気に入らなかった。
同じ『オンナ』のくせに、微塵もそういうものを感じさせなかった。

昭一郎が小学生の修学旅行の土産にレイへ櫛を買ってきた。

それをずっとレイが肌身離さず持ち続けていることを俺は知っている。

気に入らなかった。

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