《MUMEI》
出逢い
「いらっしゃいませ。」
俺は店に入るなり弁当を手に取ってレジへ向かおうとした。その時一人の女がこちらを見ていることに気づいた。俺は目を合わせないようにしてとっととレジカウンターに弁当を置こうとした。
「あぁぁ!!思い出した!!こないだ渋谷で叫んでた人だぁ!!」
「んなっ!!」
俺は思わぬ言葉につい声を出してしまった。
「ねぇ、そうでしょう。絶対そうだよ!!」
女はなんの遠慮もなしに聞いてくる。
「ち、違います…。」
俺は無性に恥ずかしくなってきてこの場を立ち去りたくて早足で歩き出した。しかし何と言うことだろう女は俺のあとをついて来るでわないか。
「ウソだ〜、絶対あん時の人だぁ。」
女のあまりのしつこさにだんだん腹が立ってた。
「あっ、そう言えば…」
「いったい何なんですか!!しつこいですよ!!違うって言ってじゃないですか!!」
それでも女はまだ何か言いたげにしている。
「まだ何か!!」
「いやコンビニの店員さんがすごい勢いで走ってきてるなぁ〜と思って。」俺は恐る恐る自分の右手をみた。そこにはお金を払っていない弁当が握られていた。
しまった!!
「どうしよう…。どうしよう!どうしよう!!」
俺はパニックに陥った。お金を払えば許してくれるだろうか??いやそれでもし警察でも呼ばれたら最悪だ。
「逃げちゃえ。」
そう言って女は困惑している俺の腕を引っ張って走り出した。
「え!!ちょっと!!」
「何、捕まりたいの!!」
「いやそう言う訳じゃ…」
俺は仕方なく走ることにした。ただがむしゃらに、無我夢中で。いったいどれくらい走っただろう?気が付くともう店員の姿は見えなくなっていた。
「くすっ。」
女は笑い出した。俺もなぜか可笑しくなってきて思いっきり笑った。こんなに笑ったのはいったい何年ぶりだろう!何が可笑しいわけでもないのに俺達は2人でいつまでも笑っていた。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫