《MUMEI》
三 初夜
 クラブ・サンドウイッチとサラダを食べ終わると、忍はアメリカン・コーヒーを炒れてくれた。

 俺が飲んでいる間、彼は流しで後かたづけをしている。
 時計を見ると十二時近かった。

「あ・・・もう帰らなくちゃ・・・」

 忍は手を止めてはっと俺を見ると、

「あ・・・あの、泊まっていけば?兄貴はどうせ、いないし・・・兄貴の部屋に泊まれば・・・」
「えっ?」

 忍の呼吸が少し激しくなっている。俺の心臓もどきどき高鳴り出した。

「シャワー、入んなよ」

 俺が一階にある狭い風呂場で服を脱ぎ出すと、忍が戸を少し開けて、

「これ・・・兄貴の下着とパジャマ」

 シャワーから出ると二階に行けと言う。上がるともう布団が敷かれていた。

 布団の上に座ってぽかんとしていた。忍と今宵は何をするでもなく、ただ、同じ屋根の下に寝る。でも俺は幸せだった。忍は三階に寝るはずだ。

 とんとんという階段を登ってくる足音。シャワーに入ったにしては早すぎる。

 階段の踊り場で足が止まった。お休みの挨拶でもしてくれるのか。

 がらとこの部屋を仕切っている襖があいた。
 そこには帰ったままの服装の忍がいた。

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