《MUMEI》

部屋で荷造りを進めていた。

「……昭一郎。レイと別れたんだって?」

平静を装う。
作り笑いは得意だ。

「フラれたんだよ。」

まるで真実だと錯覚させるような憂いた微笑だ。
拳を握り締め今は堪えておこう。幹祐も居るし。
互角な奴と戦うのは好きじゃない。

「昭一郎がレイと付き合ってたとき、俺がレイを頂戴って言ったらくれた?」

「そんな訳無いだろ」

段ボールを背にして昭一郎は作業の手を休めることをしなかった。
レイは本命じゃないくせに思わせぶりな態度をする。



昭一郎のそういう悪人に徹することが出来ないところが大嫌いだ。

一体それは誰に対する偽善なのだろうか。

俺はいつだって本当のことしか言わないのに。
それを守るためならどんな嘘もつく。


「綺麗にしたね」

段ボールの中に殆ど物を詰め込んだらしい。
がらんどうだ。
もう二度と帰らないかのような物の無さだった。

「手伝ったよ」

幹祐が無邪気に笑いかける。
頭を撫でてやった。

「昭一郎ってどうしてレイと付き合ったの?」

当たり障りのない会話を続けてやっと本題を含ませることに成功した。

レイを偽装恋人に選ぶ理由が知りたかった。



「レイだからだよ」

結局何も見えてこない解答だった。
レイは何故こんな男を好きになったのだろう。

「昭一郎、住所教えてよ。遊びに行くからさ。」

聞いてどうするってんだ。自分でも分からない。
行くかな、どうだろう。
…………女と住んだりしたら殴ってやる。

遊んでもらえたのはずっと前だ、俺も昭一郎も互いの領域は侵さない。
女もそう。

昭一郎の女が来たときも相手から口説いてきたし、それに対しても昭一郎は文句一つ漏らさない。

遊びだからだ。

だから、俺は昭一郎を許さない。

俺の本気を知りながら遊んだ。

怒りに任せてしまいそうになり、幹祐の頭を撫でた。
気が幾らか紛れる。
今ここで吐き出してはいけない。
復讐にはいろいろとフリだ。

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