《MUMEI》
レコード
ある夏の日の午後。



暇だったおれは、
トモの『おとうさん』の
部屋のドアが開いてることに気付いた。



おれは、好奇心に駆られて
そっと、ドアの内側へと体を滑り込ませた。



―…大きな机に、たくさんの本。

床はぴかぴかに光っている。


少し探ってみようと足を踏み出すと、


思ったよりも滑りのいい床に足を滑らせ、
思いっきり転んでしまった。



その弾みで、棚に体をぶつける。


と、



…♪〜…〜♪



どこからともなく、音楽が流れ出した。



ハスキーな、男の声。



…トモの声も、ハスキーだよな…



穏やかなメロディーに、優しい声。


おれは、いつの間にかその歌に聞き入っていた。



すると、



「あ〜!!ポチ、何やってんだよ!?
…お父さんの部屋、入っちゃいけないんだぞ!?」



トモが慌てて部屋に入ってきた。



…トモも入ってんじゃん。




「…??あれ??なんでレコードがかかってんだ??」



トモが不思議そうに首を傾げる。



「お父さん、先週から出張でいないのに―…」


そして、おれに目を向ける。




「…まさか、ポチ―…!!」



―…おれ!?


あ、そういえば、さっき転んだとき…



「お前、スタンド・バイ・ミー気に入ったの??」



きれいな発音でそう言って、
トモはおれの隣に座り込んだ。




しばらくその歌声を聴いていると、



〜♪…〜♪



隣から、トモの歌声が入ってきた。



発音と、声はいいけど…



トモ、音程……




でも、おれも一緒に歌いだしたくなるほどに、




それは、幸せな時間だった。

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