《MUMEI》

「何だよ、嬉しくねーの?!」

「うーん…」
俺は首をかしげた。

すると弘毅…片瀬弘毅【カタセヒロキ】は、ギョッとした風に俺からちょっと間をとった。




「まさかお前…そっちの気が…」

「断固否定。」
それだけは。

「あ、そりゃよかった。」
弘毅はまた、俺の横にぴったりと座り直した。
俺は苦笑うしかなかった。



何をするでもなく、目を伏せる。

じわりじわりと浮かび来る、一文字。


「恋…」
「ん?」

唇がその言葉を紡いでしまったらしい。
カレーパンをくわえたままに、弘毅が俺の顔を覗き込んでいた。





「いや、久々にD公園の鯉に、餌やりにでも行こうかな…と。ははは。」




俺は誤魔化しのための、適当な言葉と適当な苦笑いを投げ返した。




*****



「嘘から出た………か。」


今日は部活も休みだし、家でもすることもない。

だから俺は放課後、実際にD公園へとペダルをこいでいた。





自転車をとめる。






到着したわけでは、ない。

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