《MUMEI》 支えていた腕に力が入らない。 乗り出していた机にそのまま身体を預けてしまう。 藤田から解放された俺はみっともない姿を晒され不様だった。 「そんなに感じた?」 余裕たっぷりに揶揄られて一気に頭に血が上る。 「……馬鹿にしやがって。何?お前男が好きなの?」 揶揄には揶揄で返す。 いや、ここで引いては流されてしまう。 弱みを握ったんだチャンスだと思え。 「好きだよ。佐藤が大好きだ。 この高校に入ったのもお前を追いかけてだ。」 弱みどころかあることないこと喋り出した。 藤田の瞳には曇りが無く、嘘を言うようには思えなかった。 その藤田を俺は知らないのでどうしても認めたくなかった。 あいつが下心でツルんでいたなんて、信じられない。俺は藤田を認めていたのに、藤田は俺のことを理解するどころか、キスしてくるなんて…………しかもあの舌遣い、ただ者ではない。 「返事は分かっているから。だから、俺に近付かないでくれ。」 神妙な面持ちで掲げられた条件は鼻で笑ってしまう程にくだらないものだった。 そんなもの、当たり前に決まっているだろう。 普通でいられるほど胆もすわっていない。 俺は藤田を拒むしかないじゃないか。 ぎくしゃくしてしまうのに向こうはごく自然に接している。 どこか隠しきれない俺に藤田は上手く話し掛けないようにしていた。 いつもいるはずの藤田がいない。 違和感がある。 藤田を嫌っている訳じゃない、失望しているんだから。 俺は知り尽くしていると思っていたあいつのことを何%分かってたのだろう。 俺に見せていたあいつは実は違うあいつなんじゃないだろうか。 唇が熱を帯びている。 まだ女子とキスもまだだったのに……。 あんな気持ちいいものだったのかな? あのキスはただの遊びだったのかな? 前へ |次へ |
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