《MUMEI》
……笑顔……
無事一時限目が終わり、休み時間になった。
予想通り、皆の視線は彼女に灌がれている。
ふいに彼女が立ち上がった。と、皆が注目する。この調子だと、皆彼女ばかりを気にして、私はあまりイジメられないかもしれない。
「はじめまして朝日です」
急に声を掛けられてビクッとした私は、慌てて顔を上げた。すると、目の前には朝日の顔があった。
しばらくの沈黙の後、
「……………………はじめまして小夏です」
と、ぼそりと呟いた。
私から返事を聞いた朝日は、私に微笑みを見せた。
「はじめまして、小夏さん。小夏でいいかなあ?」
私は、ほんの少しだけ頷いた。すると朝日は「よろしく、小夏♪これから二年間、よろしくね」
と、白い歯を見せて笑った。
私が笑わない人間だからか、彼女の笑顔は輝いて見えた。彼女が笑うと、何もかもがいいことに変わる気がした。彼女の輝やく笑顔には、何か特別なものがあるように思えた。
「姫乃さん」
見上げると、木下咲子が私を見下す形で立っていた。
「なんですか」
朝日が、整った顔を木下へ向ける。
木下が口を開いた。
「この人とはあまり話さない方が良いわよ」
すぐさま朝日が言い返す。
「なんでですか」
木下が再び口を開く。
「暗いのが移るから」
私は何も言い返さなかった。言っても意味は無い、無効だから。
すると朝日は、大きな目で木下をじっと見つめた。彼女の目は、馬鹿じゃない、そんなの信じてるんだ、と言いたげだった。
やがて木下も朝日の目力に負け、自分の席へ戻っていった。
朝日は私に顔を向け、満足げに微笑んだ。
私もそれに答えるかのように、僅かに微笑んでみせた。

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