《MUMEI》
期待の狭間
私の隣で浅い寝息をたてて眠っている我が子を、主人の子どもだと錯覚してしまうことがある。
顔の輪郭や目尻、耳の形に至るまで主人によく似ている。
主人は何の疑いもなく自分の子どもだと思っているに違いない。

この子はちょうど一年前にレイプされた見ず知らずの男の子ども。

真実を知っている私でさえ、そのことを忘れてしまうほど我が子は主人にそっくりだった。


もうすぐ時計の針が午後11時をさそうとしている。
一年前の今頃、私は公園のドラム缶の中で裸にされた。
何が起ったのか理解できたのは、無情にも男が去った後の冷たくて淋しい余韻に気付いた時だった。

真っ暗で輪郭さえも見えなかった男。
私はその男の子どもを産んだのだ。


静まり返った部屋に、電話のベルが鳴り響いた。
一瞬ビクンと身体が動いた我が子がまた眠りについたことを確認し、急いで受話器を取った。

「山本さんのお宅でしょうか? 東山警察です。ご主人の山本道也を、性的暴行の容疑で逮捕致しました」

頭が真っ白になった片隅で、我が子は本当に主人の子どもかも知れないと微かな期待を描いた自分がここにいた。

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