《MUMEI》
藤田君の理由
まだ中坊の頃、俺は誰彼構わずすぐに噛み付いた。
それが災いして学校で上手く折り合いがつかなかった。
元から学校が荒れていたせいか真面目な生徒は肩が狭い。
教師達もある程度のラインまでは容認していて調子づいたクズ共が威張り散らすようなところだった。
俺は狂暴で一度キレたら何しでかすか分からない(らしい)から距離を置かれていて誰かとツルんだりはしていないが、他の奴らは群れて行動していた。

クラスではガラの悪いやつらとは別に真面目な奴らもいて、そういうのは目立たないようにするかカモになるかしかない。

一度、気の弱そうな男が俺へにこやかに笑いかけてきた。

俺もあいつも一人だった。

「君は静かだね」

「………………」

馬鹿な男だと歯牙にもかけなかったがそう思うのは俺だけではなかったようだ。

直ぐさま狙われることは目に見えていた。

俺がなにかといちゃもん付けて絡まれるくらいだ。
そいつは俺なんかの倍は酷かった。

「手首捻って宿題出来なくなった、代わりにやれ」

「うん、それは大変だね。代わりに提出するよ」

疑いもせず他人を信用してヘラヘラ笑いかけるものだから、裏切りたくなるのが人間だろう。
何故あいつが狙われたかは簡単だ。


あいつのその何も恨まない疑わない姿勢はあいつらにとって異質だった。
真っ直ぐなものこそ潰してやりたくなるのが人間だ。

金ヅルであり、いじめの対象だった。


表では雑用やパシリをさせられて、裏では財布やサンドバッグにされた。

それでもあいつは学校へ通い続けた。虐めてくるやつらを友達と信じるあいつを誰もが嗤った。
そんな馬鹿を見て愉しんで助けようともしない。

俺にもそんな馬鹿を相手にする義理は無かった。

綺麗な景色を一人授業中眺めて、黒板に夢中な生徒たち。そんなときに時折襲い来るモヤ。

あいつは気が付いた。俺のモヤに。

「君はきっと綺麗な人だね」

俺に話しかけてくる理由が分からない。

公園で虐められているあいつを助けようなんて考えなかった。


倒れているあいつに手を差し延べてやろうとも思えなかった。

ただ、傘が無いと傷に滲みる。

顔の真横にビニール傘を開いてやることくらいはしてやってもいい。

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