《MUMEI》

「昭一郎、開けろよ」

母さんに催促されて暫く顔を出さない昭一郎の家へ無理矢理行かされた。

両手に背中と大量の食糧を持たされて。担ぐとも言えなくもない。

途中知らない奴に何度も足を止められ、営業マン張りの笑顔でかわしやっとの思いで着く。


わりと年期の入ったアパートで、鍵がなんとかしっかりしてるかなというくらいしか取り柄のない狭いボロイかび臭い部屋だ。

家とたいして変わらないけれど。

インターホンの音が鳴らずノックする。
物音がした気がする。

「昭一郎!」

もう一度叫ぶ。
荷を下ろしてノブに手を回すと扉が開いた。

「昭一郎なら今は留守だけど?」

小柄で細面な男が出てきた。

「じゃあこれ渡しておいてくれませんか。
弟が来ていたって言ってくれればいいです。」

いないならそのまま帰った方が楽だし。

「弟?あがってなよ。買い出しだからすぐ帰ってくるし。」

「いや、別に待つような用事も無いんで……」

「会いたくない理由でもあるのかな?国雄君。」

こいつ、俺を知っているのか……。

「僕は愛知だよ」

苗字か名前なのか聞き出すことも出来ずに中にあがらされた。

「アンタ、昭一郎の同級生?」

俺が老け顔のせいか、向こうが童顔なのか同い年に見えなくもない。

「ちがぁうよう。
友達の進歩させたようなマブダチ?」

愛知は俺が座るのを確認すると台所へ行く。
ヤカンに湯を沸かす動作一つにもしなやかだ。

お茶でも汲んでくれるものかと思ったらレトルト食品を持っていた。

「カレー食べる?」

対応に困惑していると勝手に食べると受け取ったのか空箱が二つ燃えないゴミになった。

「スプーン一つしかないや。箸で食べて。
嫌なら僕が食べ終わるまで待つ?」

とんでもない。
首を横に振り箸を取る。

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