《MUMEI》

愛知は中性的な顔立ちで、背も170以下だろう。昭一郎との関係が気になる。

「昭一郎に僕は拾われただけだよ…………道端でぶっ倒れてたのを動物でも拾うみたいに……
感謝はしてないけど……迷惑要素は微塵もないね…………」

愛知がカレーをがつがつ掻き込んで話す。
行儀が悪い。
昭一郎なら注意している。

「君は本当に弟?高校生には見えないな。」

カレーに苦戦している俺の顔をまじまじと覗き込む。
愛知と目が合うと片手で前髪を掻き上げられた。

「毛並みは似ている」

一瞬見せた笑みがあだっぽい。

「始めて言われた。」

間を繋ぎたくて相槌代わりに答えた。

「前髪上げたらホストみたいだ。金髪にしてさぁ。」

何が愉しいのか俺をオールバックにし始めた。
ワックスが毛先に付いていて簡単に立ち上がった。

「昭一郎には女いるんすか?」

カレーがうまく掴めないので諦めて箸を下ろしながら聞いてみた。

聞かずとも部屋の感じは女の気配は無い。
しかし、レイとのこともある。
片付けの鬼だ。万が一ということもゼロではない。

「いないよ。」

愛知は満足のいく頭になったのか、一言だけ言って手を離し、カレーに集中する。

それを聞いてなんだか俺も落ち着いた。
本人からよりずっと説得力がある。

「別に昭一郎が誰と付き合おうが弟には関係ないんじゃない?」

食べ終えて自分だけ持って来た水を飲み干して言う。

「……親に報告する役割があるんで。」

思いつきの出まかせだ。
全く嘘では無い。

「今日は泊まるよね。明日休みでしょう。」

「明日は部活が……」

「嘘だ、一回サボったくらいでなんも支障ないでしょ?ね、決まりー!」

押しが強い男だ。





「……萌姉ちゃんの時計」

足元にあった時計に目がいってしまった。

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