《MUMEI》

俺も物好きだと思う。

雨の日は公園に行く。

次の日、傘は俺の机の横に立て掛けてあった。

いつもの如く俺はビニール傘を持ち帰る。

今日はたまたま用事があって公園を通り抜けなければいけなかった。

笑い声が響いた。

「あ、平高君。」

俺の苗字を呼んだ。

正直、驚いた。
あいつには友人がいた。

友人とベンチで呑気に話に花を咲かせたりなんかして。それも虐められているあの公園でだ。
虫も殺せなさそうな細っこい友達と虐められにきたのか。

「あんたが夏川を殴ったのか?」

坊ちゃんのくせにいいガンの付け方だ。

「違うよ佐藤君友達だよ。」

いつなったよ?

「友達になった覚えはねぇな。」

俺はこいつが夏川だってことも初めて知った。

「平高君が傘を貸してくれるんだ。」

「じゃあお前か、夏川の傍観者は!」

佐藤とやらは今にも飛び掛かりそうな勢いだった。

「俺が傍観者なら他の奴らはどうなんだよ。」

見てみぬ振りは俺だけでは無い。

「俺は、久しぶりにこっちに帰って来て、夏川が変わってないことが嬉しかったんだ。
そんなのはどうでもいい、問題は夏川のその優しさを利用するような奴らがいるってことだ。
お前が特にそうだ、夏川を救ってやることも出来ないのにどうして平気で夏川の前に立っていられる!」

こいつ、なんて綺麗事ばかり並べるんだ。

「いいよ佐藤君……」

「自分可愛さに夏川を犠牲にしてないって言い切れんのかよ!」

「佐藤君!!」

佐藤は口をつぐんだ。
目には絶え間無く雫のように涙が流れている。
夏川はもっと大人しい印象だったのに、今までにない大声を放った。


「大丈夫だから、僕は大丈夫……」

夏川は佐藤を宥めるように繰り返す。

「なにが大丈夫なんだよ?お前が言う大丈夫ってのはダチ泣かすことか?

オイ佐藤、お前はそうやって泣いてりゃダチが助かるのか?」

へっぼい友情ごっこに付き合わせるな、俺を巻き込むんじゃねぇ。

佐藤は瞼を片手の甲で勢いよく拭う。そこから強い眼差しの双眸が現れた。

「泣いてねーよ、誰が泣くか!
俺が夏川を助けるんだ!」

泣きながら怒ってやがる。気ィ強そうな目つきだ。


まあ、幾分か見られるようになったろう。

いいね、ただのか弱い坊ちゃんではないってことか。

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