《MUMEI》
ひとはなさく
『じゃあ、三年生から玄関出ていってー!』

七生が後夜祭のシメ、グラウンドで花火を見るための指示を出す。

放送部員は全員が花火を見るためにグラウンドで出たあと、体育館の脇の梯子から上に昇り煙を浴びず窓から花火を眺めた。

後夜祭の最後の最後に許される放送部員の息抜きだ。
去年は下で花火を見る余裕は無かった。

今年も素直に眺める余裕はないけれど。
しかも足が痛くて梯子を上がれる自信が無い。


二年生、一年生と次々移動していく様を見る。

放送部員と顧問だけが残った。


「一年生は初めてだけど、毎年恒例で放送部員は体育館特等席で花火を眺められます。」

東屋が梯子に上って誘導する。


「外行くか?」

顧問に言われた。


「教員室の鍵、貸してください。」

乙矢が先生に提案している教員室とはいつも眺めている特等席とは反対の側面の前に設置された部屋のことだ。向こう側も決して花火が見えないこともないけれど少ししか見えないので毎年片側しか昇らない。

実はそっちだと倉庫横に教員室に上がる階段があり、教員室からは見えにくい『特等席』へ繋がる階段があった。


「多少見えなくてもいいなら協力するけど?」

顧問はポケットから鍵を渡してくれた。

まあ、今から外に行っても足引きずりながら人込みに飲まれるだけだし、少ししか見えなくても楽な方を選びたいです。






「仲直りしてこい」

乙矢に意味深な言葉を耳打ちされた。
なんだ、ついて来てくれる訳じゃないのか。

つまり一人で花火を見なければならないということだろう。

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