《MUMEI》
名前
 スピーカーから静かなメロディが流れ始める。
その音を聞いて、ミユウは手を止めた。
「……あ、そういえば好きなんだっけ?ミライ」
タイキは思い出したように聞いた。
「まあね」
珍しく素直にミユウは頷く。
「けどさ、ミライって正体不明だよな」
「そうだね」
ミユウの反応は思いの外薄い。
このままでは会話が終わってしまう。
「こんなにいい歌唄ってんのに、実はブスとかなのかな。だから、表に出られないとか?」
タイキはなんとか会話を盛り上げようとミユウに意見を求めた。
しかし、ミユウは肩を竦めて「さあね」と応えただけだった。
それでも負けじとタイキは言葉を続ける。
「あ、そういえばミユウって名前、何気に似てるよな。ミライと」
失敗した、とタイキは即座に後悔した。
もっと気の利いた言葉を言いたかったのだが、つい口に出たのはこんな話題。
しかし、ミユウは予想外な反応をみせた。
アイメイクばっちりの両目を大きく見開き、タイキを見てきたのだ。
「え、な、なに?」
戸惑いながらもタイキはミユウを見返す。
「あ、ごめん。なんでもない」
「あ、ああ。そう」
やはりミユウの様子はいつもと違う。
今日の彼女にはいつものような毒がないのだ。

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