《MUMEI》 『……しょ……いちろ』 息も絶え絶えに愛知の声が聞こえた。 深夜を越えて朝方、二人は起きているのか布団はもぬけの殻になっていた。 昭一郎の部屋は便所とシャワーの一緒になったものが一つ、居間と台所が一緒になったものが一つ、最後に今俺が寝ている男三人ですし詰めになる和室で計三部屋だ。 襖は小さく開いていた。 隙間に視線を送りたくなるのが好奇心だ。 暗くてよく分からない。 大型車の走る音と赤いライトが居間を通り抜けた。 窓はカーテンが掛かっていないので派手に光りが差し込む。 赤い影のように二人の形が重なっている。 『…………ン、 んっ!』 愛知の細い腕が壁を這い、床に爪を立てて臀を突き出しながら震えている。 昭一郎はその臀に腰を密着させたまま律動し続けていた。 『……は、 ……イイッ! ふ…………ぁ』 そうそう現実では聞けない男の悦がった声。 その日の赤いライトが映した一瞬のスクリーンが網膜にこびりつき、瞼を掻いても離れなかった。 なんだ。驚くこともままならないだろう。 あの愛知の色気にも妙に納得するものがある。 相手は女じゃなかったということだ。 ということは、アレにレイは負けた? ……公園で待ち合わせ。試してみる価値はあるだろう。 正しい情報を揃えたい。 そのためならなんでもする。……愛知を奪ってやるのもいい。 昭一郎から奪えるもの全て搾り取ってやろう。 公園には週一、愛知の出す交通費で通う。 そこまでしてくれるのは、俺が『イイ』かららしい。 まあ、愛知は嵌まるほどではないが『イイ』のかもしれない。 レイとの情交が途切れた今は以前に増して躯の関係を明確に割り切れる。 要るものは一つしかないから。 そしてそれは手に入らないから。 絶対手に入らない彼女の欲しいものを俺のものにして壊してしまいたい。 歪んでいるかもしれないけど、それだけ想っていると証明したい。 愛知とは公園で待ち合わせた後、ホテルへと直行して昭一郎の話したりして帰る。愛知は今の昭一郎を、俺は過去の昭一郎を互いに話す。 前へ |次へ |
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