《MUMEI》
医療センター
-国立伊橋医療センター-
先生のメモによると野郎はここに居るらしい。

俺は呼吸を整えながら受け付けの人に有河原樹の事を話した。

有河原樹は、先程オペ室から出され、面会禁止のまま個室に移されたのだそうだ。


俺は野郎の個室のドアの前に座り込んだ。

夕日はとっくに地の向こう側に沈み、夜を迎えた病院は静かだった。
部屋の中からは微かな呼吸の音と機械音だけが鳴り響いていた。
廊下は怖い位シンとしていて、俺はこっそり野郎の病室に入った。

真っ白なはずの壁や天井が暗闇に染まり、カーテンの閉められていない窓からは外の街灯の明かりがぼうっと世界を照らしていた。
俺は静かにカーテンを閉め、手近な椅子を持ち、有河原樹の横に腰を下ろした。

有河原樹はいつもの寝顔で機械を通して呼吸をしていた。
心電図も一定の早さで有河原樹の心臓の動きを示していた。

時計の秒針の間が妙に長く感じた時に俺はふと気付いた。
「コイツ‥家族は‥?」
勿論‥答えなど返ってこない。

(そう言えばコイツ‥どこから来たんだ‥?聞いた事‥ないな‥)

俺はそんな事を考えながら、深い闇へと落ちていった。

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