《MUMEI》

一人で這いながら階段を上がる。誰か上るのくらい手伝ってくれないのかなんて恨み言を思いつつ。

やっとの思いで(這い)上がり、教員室の体育館へ繋がる扉の鍵を開けた。

また壁を這いながら真ん中辺りの窓枠に腰を下ろす。
奥行きがある窓枠で俺一人腰掛ける分は余裕があった。片脚がはみ出て、もう片脚は少し曲げる程度で収まる。

向かい側は皆楽しそうに騒いでいた。



羨ましくもあり、そんなテンションでは持たない自分がいる。




「じろー。なんでこんなところに?」

七生が下の梯子から上がってきた。聞きたいのはこっちだ。
なんでこいつが。




『仲直りしてこい』

…………チッ、乙矢か。


七生は俺の座っている窓のぎりぎりまで近付いて壁に寄り掛かった。

「……来るな」

はみ出した脚で蹴り上げる真似をした。

「例えばさ、一生ものの恋をして、それがなにかのきっかけで崩れそうになる。
互いに話すタイミングを逃し続けた。
片割れが足を痛め、冷やしに暫く姿を消した。
帰って来た頃にはへろへろになっていて、勘繰ってしまう程だ。」

聞かせるように低く甘い声で囁いてくる。

「止めろ」

そんな語りは反則だ。

「きっとそのフェロモンにやられた愚か者が襲い掛かったに違いない。
直ぐに何もかも棄てて抱きしめに行かなかった自分を後悔した。」

「聞こえない!」

耳を塞ぐ。

「その体に誰か別の人間を触らせてしまったことを後悔した。
こんな気まずくなるなら、見られていたのを知っていて告白されてたとき、その気もないのに返事を引き延ばさなければ良かった。
ただ妬いてほしかったなんて、餓鬼だった。



なあ、顔を見せてくれよ」

窓に乗り上げ、俯いて耳を塞ぐ俺の両手を引き剥がした。
今度は顔を見られたくないから自分の穿いていたスカートの裾を持ち上げて顔を覆った。

「やだ」

折れたら負けだ。

「その格好かなり間抜けだぞ。
ハーフパンツから白い脚を覗かせて触ってくれって言ってるようなもんだ。」

七生が言葉で攻めながら指で内股を突く。
細胞一つ一つが刺激を覚え込もうとしている。

「ずるい」

足が痛くて逃げられないのを知っているからこんなにじわじわ攻めてくる。

「顔を見せて」

「ヤ、ダ」

覆っていたスカートを無理矢理力で捩伏せられ鼻まで顔を出された。
裾を歯で噛んで意地でも見せないようにしたかった。

「……だから、怖い。」

七生は溜息をつく。

「んむ?」

俺に奴の真意は汲み取れず顎をきっちり閉じてやることしか出来ない。

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