《MUMEI》 うたおれは、もうほとんど視力を失くした目を薄く開いた。 「…ポチ」 トモの、心配そうな声が届く。 ああ、もう少し… もう少しだけ、お前の傍にいたかったなあ… ―…でも、もう時間なんだ。 薄く開いた瞳から、涙が零れた。 「おい、ポチ…!?」 トモの声がくぐもる。 トモ、泣くな。 今日は『入学式』なんだろう?? 泣いてくれるのは嬉しいが… トモには、笑顔が似合ってる。 だから―…笑ってくれ。 おれは、失った声を搾り出し、 あの歌を歌った。 すうすうと、 空気の出る音しか出ないけど、 それでも、トモに心が伝わるように 一生懸命に歌った。 …おれの、声にならない声に トモの声が、重なった。 前へ |次へ |
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