《MUMEI》

私はこの男と別れるタイミングを逃し、近くの公園に向かいベンチに座った。

「そういえば、まだ名前聞いてなかったね?」

すでに1本目を食べ終え、2本目を舐めている男が思い出したように言った。

「…佐川加恋(サカワカコ)です。」

「加恋ちゃんか。よろしくね。」

私はよろしくしたくないんですけど…。

「僕の名前は、稲葉四季(イナバシキ)。イナちゃんって呼んでよ。あだ名で呼んだ方が、親しくなれそうでしょ?」

「……。」

私は、『全くこの男に似合わないあだ名を絶対に呼ばない。』とこの瞬間、心に刻んだ。

「やっぱ、助けてもらったんだからお礼しないとな…。」

「そんなのいいですよ。」

「よくないよ。実は僕、探し屋ってのをやってるんだ。」

「探し屋?」

何それ?


「そう。探してほしい物をなんでも探してあげる仕事だよ。」

「へぇ。探偵みたいなものですか?」

「似てるけど、僕はどんなものでも探すんだ。その人の顔のホクロの数や『ウォー○ーを探せ』の中のウォー○ーとか。日常生活の些細なこと全部。」

……大変な仕事…。


「だから君も探してほしい物、言ってごらん?」

突然、そんなこと言われてもな…。

「ないの?欲がない子だね。」

…これは誉められてるのかな…。


「まあいいや。はい。」

とポケットからボロボロの手のひらサイズの紙を私に渡した。


「なんですかこれ?」

「名刺だよ。」

「名刺!?」

私は何も書いていないと思っていた紙を顔の近くまで持ってきて、じーっと見た。

すると確かに薄いけど、汚い字で何か書いてある。


『探し屋 稲葉四季
住所 △△市○×町□丁目159‐10』

「なんでこんなに字、薄いんですか?」

「さあ?書いた時はちゃんと濃かったんだけど…。いつの間にか薄くなってた。」

「何で書いたんですか?」
「鉛筆。」

…普通名刺って鉛筆で書かないよね?
この男としゃべってると何が常識で、何が非常識か分からなくなる…。


「連絡先ないですよ?」

「……電話持ってないから…。」

…………。

『なんで名刺、パソコンを使って、作らなかったんですか?』

という、質問も喉まででかかっていたけど、唾と一緒に飲み込んだ。


「そこに住所書いてるから、いつでもおいで。」

「えっ!?」

意外な言葉に私はビックリした。


「探し物を見つけたら、言いに来てよ。」

「あ…はい…。」

「よし。じゃあ僕、帰るね。バイバイ。」

と飴がいっぱい入った袋を提げて、公園を出て行った。


いったいあの人はなんだったんだろう…。

ひとまず、私はこの暑さから逃げるため、家に帰った。

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