《MUMEI》

『あれ』―…なんと呼べばいいのか判らないから、『あれ』。


魂…みたいなもの、だと思う。

例えば、霊とか、そういうの。


物心つく前から、俺には視えてたんだろう。
幼い俺は、『あれ』と生身の人間の区別が全くつかなくて。



だから、周りから見ると変な子ども、だっただろう。



でも、俺には未だ『あれ』と生身の人間を見分けることが難しい。




『あれ』には実体があるからだ。



俺は、『あれ』を触ることができるし、会話もできる。


だから、微かな雰囲気で感じ取るしか、
見分ける方法がない。



でも、普通の人には見えないし、触れないし、会話もできない。



俺は、『あれ』を視ることができる、という
『呪われた』能力を持っている。



両親もまた、同じ能力を持っていた。


それでも、両親は、
生身の人間と『あれ』の区別をつけられなくて、


それで、死んだ。



俺は、小学校に入る頃には
『独り言を喋ってばかりの変なヤツ』
と周りに避けられて、


その頃、俺が友達だと思ってたのは、『あれ』だった。



両親が死んでから、俺は周りと関わるのを止めた。


人と、『あれ』。



『あれ』と関わるのが怖くなった。


そして俺は、人と関わることさえ、怖くなった。



―…俺には、両親の持たなかった、もう1つの『能力』が備わっていたからだ。



親戚に引き取られ、『目立たないけど、優秀な子ども』
として育ち、


高校は『特待生全額免除』で通えるから、
今はバイトをしながら一人暮らしをさせてもらっている。




――世界は、


俺の目には




灰色にしか映らない。

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