《MUMEI》

『なんだよコレ……』


中傷ビラが校内に撒き散らされていた。
虐めっ子の団体が夏川を襲ったというもので、既成事実の接吻画像まで親切に載せてある。

瞬く間にクラスから全校生徒に知れ渡り、夏川はクラスメイト達の前では『知らない』『分からない』の一点張りでそれが逆に信憑性を増した。

虐めっ子団体は完全否認して、夏川が勝手にやったことだと言う。
膠着状態が続き、遂には親が出て来たらしい。

そういうのには興味も無い。教師達の手が回らず騒ぎを収集しきれてない今のこのどさくさに紛れ帰ることが最優先だ。

夏川達は一時間目からずっと話し合いが続き、鞄を取りに来る様子も無い。



指導室の扉が開いた。

「……ひ、平高君」

親と一緒に夏川が出て来る。

俺を呼ぶと同時に飛び付いて泣いた。
なんだこれは……!

「貴方、充弘のこと何か知っているの?」

夏川の母親は縋り付くような目で訴えてくる。

俺は何も知らねぇ!

しかし今コイツを振り払っても質問攻めに合うことは目に見えている。

そして俺と夏川はそんな表立ってツルんでいなかった、夏川と目を合わせると『夏川とデキてる』なんてまことしやかに囁かれている今、公衆の面前で抱き着かれてみろ。

ここで振り払っても逃げ場は俺に無い。

落ち着いて、自分に降りかかる火の粉を払うことを優先しよう。




そして俺は指導室で夏川親子が見守る中新しい証言者として説明する羽目になった。

虐めっ子側の親は有ること無いこと次々口に出してくるし夏川は何も話さないしで教師側としても参ってしまっていたよいだ。

そこで俺を新たに加えることは賭けに近かっただろう。藁をもなんとやらというやつか。

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