《MUMEI》

ふと、右腕の腕時計を見る。


―生前の父のものだ。


針は八時七分を指そうとしていた。


そろそろ学校に向かわなきゃいけない時間だが、



雨が、降っている。



俺は、傘を持ってない。


―…無駄な荷物を増やすのも嫌いだから、だ。



学校に遅れることぐらい、どうってことない。


取り敢えず学年1位、模試で1位を取っていればいいから。


『テストで点を取る』


…俺にとっては、容易いことだった。


ただ、目の前の問題を解くだけ。


問題は裏切らないし、
正しい答えをかけば受け入れられる。


他人と関わることに比べれば、よっぽど簡単だ。



小さくひとつため息をつくと、


境内の石段に腰掛けて雨止みを待とうと、俺は神木に背を向けた。




―…そのとき。







「うわぁっ!!!」




背後から、どさっ、
と何かが地面に落ちるような音と共に、





―…女の叫び声が聞こえた。

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