《MUMEI》 「謀ったな」 夏川に耳打ちした。 白々しく目を伏せて涙を溜めている。 相手の親や教師達を説き伏せるのには苦労した。 こんなに饒舌になったのは久し振りだ。 とりあえず、俺は夏川が公園で襟を乱しながら『直前で逃げ、助けを求めていた』というシチュエーションを前提に無知をアピールした。 夏川が虐めっ子達に迫ったことも信じられないが、ビラは彼等の動揺ぶりから嘘でも無いらしいと判明する。その夏川を証言できるほどの頭が無いせいか、親の勢いに気圧されてなのか全く教師達は聞く耳を持たなかった。 直感だが、佐藤が絡んでいるに違いない。 「引っ掛かるやつが悪い。」 公園で会った佐藤は横柄な態度だった。 「夏川に何させてんだよ。」 「思春期の相手を内から崩す為さ。馬鹿っぽい奴らだからね。 ……夏川は強い。あんな相手でもキスすることが出来た。 褒めてやってよ。」 「……よくやった。」 佐藤の頭を撫でてやる。 「何で俺っ……?!」 佐藤は動揺した。 佐藤を撫でてやったのは俺が気付いていたからだ。 「あんな数のビラを教室中張り巡らせて……クラスの奴どうやって口説き落としたんだ?」 夏川に聞いた。クラス名簿を見て電話を掛けまくってたのだと。 俺以外のクラスメイト達に訴えかけたこと。 「別に、ちょっと世間話したくらいだよ。」 佐藤はカッコつけているようだが、まだ褒められることに抵抗を覚えていた。 「思いの外見直したよ。」 返しやすいように毒づいてやった。 「最期は平高に尻拭いさせたとこなんて傑作だ。」 毒には毒で返って来た。 自然の流れで握手する。 前へ |次へ |
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