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《MUMEI》 いつもの公園のベンチには愛知の代わりに昭一郎が座っていた。 ｢昭一郎が何故いるんだ。｣ 俺を一瞥し、眩しそうに天を仰ぐ。 ｢愛知は病院だよ。往復の交通費を渡すように頼まれた。｣ 特にそれ以上言うことも無いらしく、黙殺される。 俺達は嫌な間を作るのが得意なようだ。 ｢愛知、怪我したの？｣ 意を決して話し掛ける。 ｢ああ、輸血したら大分安定したらしい｣ ｢輸血?!｣ 一体なんのために！ ｢浮気がバレて刺されたんだ。｣ 昭一郎は冷静な口調のまま崩れない。 ｢女に刺されたのか……｣ 俺や昭一郎の関係を知れば刺したくもなるだろう。 ｢幸い俺達の顔は割れていない。｣ 彼の言う幸いなどあるものかと心の内で昭一郎に毒づく。 ｢見舞いとか行っていい？｣ 刺された傷は見せてもらえるだろうか。 ｢ややこしくなるから止めておけ。｣ ｢俺が浮気相手ってバレるから？｣ 性別まで絞り込まれていたのか。 ｢俺がモエに説明する羽目になるからだ。｣ は？ ｢モエ姉ちゃん？｣ ｢そう。愛知の恋人。｣ 昭一郎が俺に冗談を言うはず無い。 ……愛知がモエ姉ちゃんの恋人だって？何故気付かなかったんだ。 ｢昭一郎、何考えてんだ？人間を刺すだなんて余程のことだろ、それもあのモエ姉ちゃんが……。 なんでそんなになるまで追い詰めた？｣ 愛知がモエ姉ちゃんの恋人だって知っていたら俺だって手を出さなかった。 ｢お前も抱いていただろ｣ 昭一郎の悪びれる様子も無く、いやらしさを感じさせない冷ややかな物言いが怖かった。 ｢違う俺は……｣ 否定しているが何を認めたくないかさえ曖昧だ。 ｢愛していなかっただろ。体だけの付き合いだ。 お前もやっていることは俺と変わらない。 違いは救ってやったことくらいだ。｣ ｢なんだよそれは……はっきり言えよ。｣ 救うだの救われただの、懺悔はもうたくさんだ。 ｢あれは、輪姦されていた。俺は何も知らない人形に自ら止めさせられるような意志を教えた。｣ 昭一郎は眉一つ動かさず無感情に話す。 ｢昭一郎……言っている意味が分からない｣ それ以上相応しい言葉が見付からない。 前へ |次へ |
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