《MUMEI》
蝶の導き
 蝶は逆さに生を受けた 
望まぬ永遠を生きていく中で
蝶は一匹、甘く苦い夢に酔いしれる……

 ひどく体調の悪い日だった。
早朝より思わしくなかった体調は陽が高くなるにつれますます悪くなっていく。
眩暈、吐き気、更には頭痛
それら全てに苛まれた深沢 望は耐えきれずその場へと座り込んでしまう
肩でばかり息をする深沢
その彼の目の前へ、不意に現れた何か
ひらりひらりと舞うかのように傍らへと寄り添ってくるのは一匹の蝶で
それは深沢が今、生を営むためなくてはならないものだった
「つくづく不便な体だ」
まるで人事のように呟けばその蝶はまた姿を消し
それに伴って、身体は益々怠さをましていくばかりだ
「…相変わらずね深沢」
道の脇にて蹲る彼へ突然に声が降ってくる
聞き覚えのある声に一応は顔を上げ、相手をみるなり露骨に嫌な顔だ
そんな深沢に、相手は深々しい溜息をつく
「あんたもその体引きずってよく生きるわよね。私が言えた義理じゃないけど感心するわ」
心にもないことを言う相手へ、深沢は感情のこもらない声で全くだ、と一言返し立ち上がる
踵を返し相手へと背を向けると、その場を足早に立ち去っていた
「ちょっ……、待ちなさいよ!深沢!」
相手からの怒号に振り替えることもせず
しばらくまた歩き続け、だがまだ体が怠いのか座り込んでしまう
目の前では蝶がひらりと舞って遊び、
その色は、黒一色ながら鮮やかだと眺め見てしまった。
「それって、幻影だろ。アンタが囲ってんだ」
突然現れた人の影
見上げてみればそこに、一人の少年が立っていた。
「なぁ、ソレ俺に譲って」
いきなりの申し出
訝しんだ深沢が、相手を伺いみれば
その腕には包帯が巻かれていて
適当に巻かれたであろうソレの隙間から覗く真新しい傷が、見るに痛々しい
彼は多分、自殺志願者
それ故に、この蝶々に興味など抱くのだろう
「……言っとくが、こんなモン使った処で死ねる確率は百じゃねぇぞ」
深沢の言葉に相手は僅かに眼を見開いて
その様子に、深沢は更に言う事を続けていく
「死ねる奴は即行死ねるが、ごく稀に別の作用を起こす事があるんでな」
下手に関わる事をしないほうがいい、と忠告をしてやり深沢は立ち上がった
家路へと着こうとする深沢へ
「……なんでわかったんだよ。俺が死ぬ為に幻影欲しがったって」
相手から問う声が寄越される
深沢は溜息を1つついた後、少年の腕へと視線を向けた
「テメェの腕見れば誰でもわかるわ。それで?テメェこいつの事何処で知った?」
わざわざ足を止め問うてやれば
目の前に突き出されたのは携帯の画面
そこには何故か幻影の姿が映しだされている
「今、自殺サイトとかですげぇ話題になってる」
「……随分と物騒な話だな」
「いい夢見ながら死ねるって話だけど?」
違うのか、と首を傾げる相手へ、深沢は再度溜息をついて返す
この蝶は人を弄ぶのだ
毒を吐き散らし、その毒により人は死か永遠かの選択肢を与えられる
望むものが手に入る可能性は低く
死を望めば永遠を与えられ死不の体
生を望めば即黄泉の国
どちらにせよ、いい夢など見れる訳もなく
前者の立場にある深沢が相手へと言ってやれることは何1つない
下らないと立ち上がり踵を返すと
相手へは一瞥すらくれてやらずに、その場を後にしたのだった……

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