《MUMEI》

「何だよ、急に!」

俺の手を払いのけながら、祐希がこちらを睨む。

「だって…」

(お前の身を守るためなんだよ)

とは、言いづらい。

それを言えば、当時の事情を、高山本人の前で説明しなければならない。

高山の機嫌をこれ以上損ねたくない俺としては、それは避けたい。

「…」
「何なんだよ」

「まぁまぁ」

無言の俺に、口を開いたのは、高山だった。

「『美人の妹』って言うのは、私では無くて私の妹の貴子(きこ)の事なんです」
「妹?」
「はい。
うちは、秀兄ちゃんと、その二つ上の大(とも)兄ちゃんと、私の一つ下の貴子の四人兄妹なんですよ」

高山は相変わらず微笑みながら、祐希に説明する。

(高山、お前、本当に成長したな…)

俺は感心した。

「それより、何か注文しません?」

高山の提案で、メニューに目を通し、店員を呼んで注文した。

目の前に、つまみと一品料理・それぞれの飲み物が揃った時点で、高山はいよいよ本題に入った。

というより、ど真ん中直球ストレートだった。

「それで、二人は恋人同士なんですよね?」

(あぁ…)

俺は無難なBを選択する事にした。

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