《MUMEI》
夏の思い出
ねぇ、今度のキャンプでさ、キャンプファイヤーやろうよ


私は何故そう言ったのだろうか。
本当はやりたくなかった。
でも、私の中の何かが、言ったのだ。
炎は綺麗だ、と。
当時、私は綺麗な物が好きだった。
いや、今もだが。
炎は綺麗だと言われると、すぐに日曜日に行く予定のキャンプのことを思い出した。
父に言ったのだ。
キャンプファイヤーをしよう、と。
それを聞いた父は、それは楽しそうだ、と即承知した。
喜ぶ幼き日の私。
霧のように霞んだ、しかし忘れられない記憶。



火は揺れる。
響くのは楽しげな声ではなく、天を穿つ断末魔。
少女が、たった独りで、そこに立っている。
周りには、大小様々な黒い塊。
異臭を放つそれは、かつて人間だった物。
キャンプファイヤーは力強く、だが儚く燃え続ける。
少女の口は禍々しく歪み。
独りで、楽しげに笑っていた。

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