《MUMEI》
「戻ってきたみたいだ」
俺は裕斗君に軽く微笑みかけてから立ち上がり扉まで行った。
裕斗君がソファに座る角度からは扉は見えない。
俺は恋人と頬にキスを交わしあった後、若い客が居る事を告げた。
彼は一瞬苦笑いをしたが「別に構わないよ」とだけ言い、軽く唇にキスを落としてきた。
今だに鍛える事を怠らない逞しい躰。
長身にブロンドの髪、深い緑色の眼。
彫りが深く整ったこの男の顔はまるでギリシャの彫刻の様だ。
一目見た時から惹き付けられ、心も…躰も奪われた。
妻子が居るのを分かっていながら手放せなくなった。
この人は今だに片時も忘れる事なく子供の写真を持ち歩いている事は知っている。
子供達に溺愛している…しかしこの人は俺を選らんでしまった。
俺は彼の後ろを付いて行く。
リビングの入り口を抜けると裕斗君は立ち上がり、そして振り返った。
「…裕斗」
先に言葉を漏らしたのはシェスターだった。
裕斗君は無表情のまま、というよりも何がおこったのか分からないといった状態なのだろう。
全ての時が止まったかの様に微動だにもしない。
――確かもう3年近く会ってないと聞いている。
娘さんの義務教育が終わった時点で、仕送と子供に会う事を恭子さんに終止符を打たれたからだ。
最近、偶然テレビで裕斗君を見かけ、どうしても我慢できなくなったシェスターは恭子さんに連絡を入れた。
堅くなに拒否される覚悟だったのに、裕斗君の意思次第で合わせても良いと言われていた矢先の…今回の再会。
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