《MUMEI》

人込みに紛れて懐かしい顔がこちらを見ていた。手を大きく振りながら満面の笑みを浮かべている。

小走りでこちらにかけてくる彼女は相変わらず元気そうであった。走る度にぴょこぴょこと動く後髪が以前より少し伸びたぐらいで、後は想像していたとおりの彼女がそこにいた。

久しぶりに会う女の子に、変わらないなんて言葉は男として不合格なのだろうか。綺麗になったなと気の利いた一言も恥ずかしくて言えない俺はまだまだお子様なのだろう。でも奈々なら、そんな気を使う必要はなさそうだ。

会うのは久しぶりでも、電話では何回か話している。だから全然久しぶりという気がしない。

俺の車に向かって歩きながら、奈々も全然久しぶりに感じませんね、なんてことを言っていた。相変わらず奈々は俺のことを先輩と呼び続ける。もう部活も終わったんだし先輩と呼ばれるのは何だか違和感がある、そう奈々に伝えると、

「それじゃあ何て呼べば良いですか?」と切り返えされたので、慌ててやっぱり先輩で良いよと返事をした。

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