《MUMEI》

「何処にいたの?」

駅でただ立っているレイの生暖かい笑顔が怖かった。
勘繰られたに違いない。


「ネェさんが人を刺したよ」

そんな物騒なことを話すレイが何故だか笑っているように見える。

「昭一郎から聞いた」

また、昭一郎に言い訳を頼もうとしてしまった。


「刺されたのはネェさんの同棲相手でお金持ちの人だって。経営者らしいよ。」

そんな愛知は知らない。
駅の階段を上る。家路までが重い。尋問をされているみたいだった。

「……俺も萌姉ちゃんがそんなことするだなんて信じられなかった。」

正直な感想だ。




「  恋は衝動だわ。

私も昨日が今日だったら国雄を刺した。」

レイはくるりと一度回りながら走る。
浮世離れした軽やかさだ。



「……レイ、俺はきっと刺されない運命だった。」

そうに決まっている。レイが俺を殺すわけがないのだから。



「そんなに愛してるなら私に黙って昭一郎と会わないで!」

追いかけることも許さない後ろ姿だった。

レイは策士だ。
昭一郎を単純に好きとも取れるが、俺を想っているようにも受け取れる。

そうやって不明確にしておいて恥をかきたがらない俺を追わせようとしない。
放っておけと言わないで走り去る芯の強い彼女が好きだ。

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